JOURNAL

No.01 古橋織布のこだわり

静岡県浜松市の街はずれにある古橋織布。
主にシャツやパンツなどの生地を織る、100年近く続く織り屋です。
自分で言うのも恐縮ですが、『 唯一無二 』だから、ここまで続いたんだと思います。

「古橋織布で織ってほしい」と各国から注文をいただき、納品が半年先になることもしばしば。
世界的に有名なブランドや、国内のアパレルなど、多くのお客様と取引しています。

今まで生地のこだわりを、お取引先を通して伝えてきました。

これからはダイレクトに届けたい。

そんな想いの第一歩で、「読み物」をスタートすることにしました。

まずは、古橋織布の看板でもある“シャトル織機(しょっき)”で織っているということ。
今は製造されていない、とても貴重なものです。

ヨコ糸を運ぶのに、シャトル(杼・ひ)を使うので、「シャトル織機」といいます。

古橋織布では、シンプルな平織りを織るのに適した「阪本式のタペット式」を使っています。
40~50年前に地元遠州で作られ、今は生産されていない貴重な機械です。

長年使い続けているシャトル織機は、年々壊れやすくもなります。

もちろん、部品も生産されていません。
中古を探し回ったり、高くても特注で作るしかなかったり。
どうにもこうにも手に入らない部品もあります。

20台あるシャトル織機は、毎日『またか~。。』と呆れるほど次から次へと、不具合がでます。いたちごっこのように。
難しい織物ばかりなので、尚更です。

また、シャトル織機は、現代の高速織機に比べ、生産スピードもかなり遅いです。

100年以上も前からある『力織機』や、尾州産地などで使われる『ションヘル織機』は、1分間に60~90回転ほど。
『シャトル織機』は、最大160回転ほどの、高速な織機でした。
ちなみに、古橋織布では140回転ほどのスピードで織っています。

そして、革新技術の発達により、次に開発されたのは『レピア織機』です。
シャトルの代わりに、矢の形をした部品の『レピア』がヨコ糸を運びます。

1分間に最大250回転ほどのスピードで、シャトル織機の1.5倍。
速さだけではなく、性能や品質もアップ。

古橋織布のシャトル織機では難しい「太い綿糸」や「ウール」、「チェック」や「ボーダー」などが織れるので、古橋織布にも1台だけあります。
回転数を下げると、シャトル織機のような風合いに近いものも作れます。

そして近年、大量生産の服や、工業製品のほとんどは
『エアジェット織機』と『ウォータージェット織機』で織られたものになりました。

良品生産率が一気に上がり、24時間フル稼働できます。
パソコンでデザインしたデータを取り込めば、複雑な柄物も、その通りに織れます。

スピードは、毎分1200回転ほど。これは、古橋織布のシャトル織機の“ 約8倍 ”です。
古橋織布でいちばん時間のかかるタイプライターは、1時間に約2m。
エアジェットでは、単純計算で1時間に約16m。
(エアジェットで、古橋織布のタイプライターが織れるかは…別の話。)

国内外の大きな織物工場のほとんどは、この大量生産型の革新織機を使っています。
シャトルを使わないため『シャトルレス織機』とも呼ばれています。

シャトル織機は手間ひまがかかる…

それでも、シャトル織機を手放さなかった理由はいくつかあります。

それは…シャトル織機にしか生み出せない『風合いの良さ』があるからです。
この風合いに先代も、四代目の私も恋してしまいました。

シャトル織機は、糸を“ゆったり”としたテンションで張り、“ゆっくり”とヨコ糸を運びます。
そして“しっかり”と丈夫な生地に織りあげることができるのです。

さらに、古橋織布のシャトル織機は特別なんです。
世界的にも希少なシャトル織機に輪をかけて、タテ糸が大きく開くように改造しています。

タテ糸をより大きく開くことで、たくさんのヨコ糸を打ち込めるため、密度が高くなります。
また、空気を含みながら“ゆっくり”織るので、糸を潰さずに織り上げます。

織りあがった生地の断面は、糸が波をうつように織り込まれ、糸の断面は丸い状態のまま。
ふっくらとした柔らかな“風合いの良さ”は、“世界にここにしかないシャトル織機”だから生まれるのです。

そして、いくら希少なシャトル織機でも、素材が良くなければ、良いものはできません。
厳選した「綿」「麻」「ウール」などの天然繊維を使い、シャトル織機で織ることで、素材の良さを最大限に活かします。

江戸時代、遠州は「日本三大綿織物産地」のひとつと言われていました。
戦前戦後は、遠州の人口のおよそ90%が繊維業をなりわいとし、日本有数の大手紡績工場が、10社ほど集まり、新しい糸の開発に取り組みました。
そのため、古橋織布のような織り屋が、高級糸の試織を重ねることで、自然と技術が発展しました。

今も素材の選定にはうるさく、こだわりがあります。

地球上の綿花のうち、約2%しか生産できない超長綿を使ったり、取引き先のデザイナーさんやコンバーターさんの要望に応えたり、高密度の限界に挑戦したり。
『綿』だけにはとどまらず、『麻』『ウール』『和紙』『バンブーレーヨン』『シルク』など幅広く対応し、新商品の開発にも取り組みました。

他にはないオンリーワンのものづくりを目指すことで、“古橋らしさ”が構築されました。

さらに、仕上げ加工にもこだわっています。

シャトル織機の『上質な風合い』には、仕上げが肝心。
見た目も、肌触りも、着心地も、加工で決まります。

シャトル織機で織ることで生まれた風合いを損ねないよう、古橋織布の生地のほとんどは、あえて『ワッシャー仕上げ』と『タンブラー乾燥』のみ。
最もシンプルな加工方法で仕上げています。
まさに洗顔したての “すっぴん” ような生地です。

『ワッシャー仕上げ』で、一反(50m)ずつ、ていねいに洗い、生地が“きゅっ”と縮まることで、目がつまり厚みのある生地に。
その後、一反ずつ『タンブラー乾燥機』で乾燥させます。
長年お付き合いのある加工のプロフェッショナルに支えられ、古橋織布の 『 上質な風合い 』ができあがります。

古橋織布の“ふっくら”で“上質な風合い”はこうして出来上がります。
これだけ手間暇かけてつくりあげた生地は“ 古橋にしかできない ”と自負しています。

手に取ってもらえば、その違いが分かるはず。
よかったら、一度お試しください。